子どもの咳
気道の中に異物や分泌物が入り込むと、速やかに排除するために咳が出るようになります。子どもの気道は大人と比べて未発達で狭くなっているため、小さな異物や気道内の炎症に対して咳が出るようになります。風邪の後も長く咳が続くのは、風邪の治りかけに分泌される痰を排除したり、気道が炎症を起こしているためにちょっとした刺激にも過敏に反応するためだと考えられます。
子どもの咳はよくみられる症状ですが、夜眠れず何度も目を覚ましてしまう、食事が摂れない、咳き込んで吐いてしまうなど看護するご家族も悩まれることの多い症状です。咳が長引く時には一度ご相談ください。
咳の種類
咳といっても下記のように色々な種類の咳があります。
- 痰の絡まない乾いた咳 コンコン
- 痰が絡んだ湿った咳 ゲホゲホ
- 喘鳴 ゼーゼー・ヒューヒュー
- 犬の吠え声、オットセイの声に似た咳、ケンケンする咳
速やかな受診が必要な咳
- 呼吸の回数が多く荒い呼吸をしている
- ヒューヒュー・ゼーゼーする喘鳴が続く
- 近づくと呼吸をするたびに音が聞こえる
- 異物を誤嚥した恐れがある
- 眠れないほどの咳が出る
- 顔色が悪い
- 鼻翼呼吸(呼吸のたびに小鼻が膨らむ・しぼむ、小鼻がピクピク動く)
- 肩呼吸(呼吸のたびに肩が上下する)
- 陥没呼吸(鎖骨の上や肋骨の下が呼吸に合わせてくぼむ)
上記に1つでも該当する場合は受診するようにしてください。なお、喘息で治療中の方で喘鳴が起こった場合は、医師の指示に従い吸入などを行うようにして下さい。
上記に該当する症状がなく、咳以外に他に症状がない場合でも、咳が2週間以上治まらない場合は、一度ご相談ください。
考えられる原因・疾患
風邪
のどや鼻などの上気道で炎症が起きている状態です。ウイルス感染が主な原因で、咳以外の症状としては鼻水・鼻づまり、咽頭痛などが起こります。
原因ウイルスとしては、ライノウイルス、コロナウイルス、ヒトメタニューモウイルス、RSウイルス、コクサッキーウイルス、アデノウイルスなどが挙げられます。およそ半分の方は10日以内に改善し、25日以内には90%の方が改善すると考えられています。
場合によっては気道が敏感な状態が治らずに、慢性的に症状が続くこともあります。
クループ症候群(急性喉頭気管支炎)
生後6か月〜3歳までの子どもによく見られるもので、声帯の周りに炎症が起きて気道が狭窄することで生じる特徴的な咳をします。「風邪の咳とは違う何か変な咳」、「犬が吠えているような低い咳」、「オットセイの鳴き声のような咳」、と表現されることが多いです。
軽症であれば咳や嗄れ声といった症状が現れる程度ですが、重症化するとヒューヒューと苦しそうな呼吸をするようになります。風邪のひき始めの頃に一過性に見られることの多い病態ですが、中には咳が止まらなくなったり、呼吸困難を伴うこともあり注意が必要です。
治療としては、炎症を抑えて狭窄を改善するための吸入や、ステロイド薬の投与を行います。咳が止まらない、眠れない、呼吸が苦しそうなどの症状があれば、速やかに受診してください。
副鼻腔炎
粘り気が強く黄色い膿のような鼻汁がのどの方に流れ出る後鼻漏が起こります。その他、慢性的な湿った咳、慢性的な膿性の鼻水、鼻づまり、頭痛、顔が圧迫されたような痛みが起こることがあります。
急性副鼻腔炎の60%程は自然に治ると考えられていますが、慢性化した場合は抗菌薬による治療が必要となります。
気管支炎・肺炎
風邪による上気道の炎症が気管支や肺まで及んだ状態のことです。上気道の炎症と比べて、発熱や咳の症状が重くなりやすい傾向にあり、治療にも時間がかかると考えられています。
また、発熱が長引いている場合や、血液検査によって強い炎症が確認された場合は、抗菌薬を使った治療を行います。
肺炎であっても治療方法は概ね同じですが、酸素吸入を要する呼吸困難を起こしている場合や体力の消耗が強い場合などは、入院治療をご案内することもあります。
気管支喘息
気管支をはじめとする気道がアレルギー反応により慢性的に炎症を起こす疾患です。ゼーゼー・ヒューヒューといった苦しそうな喘鳴が起こります。特に、食物アレルギーやアトピー性皮膚炎を患っている子どもの発症率が高いですが、特にアレルギーを持っていなくても、風邪などをきっかけに発症する場合もあります。強い喘息発作が起こっていなくても、風邪を引いた後になかなか咳が治らない場合、夜から早朝にかけて咳がよく出る場合、運動するとゼーゼーという苦しい呼吸になる場合などは、気管支喘息の可能性もありますので、一度ご相談ください。
また、咳で話せなくなる、歩けなくなる、眠れないほどの咳が出る、呼びかけても反応が鈍い、顔色が悪い、鼻翼呼吸、肩呼吸、陥没呼吸といった場合には、速やかに受診してください。
咳喘息
ヒューヒュー・ゼーゼーする苦しそうな喘鳴や呼吸困難にまでは至りませんが、咳のみが現れる状態です。喘息とは違う疾患ですが、治療としては気管支拡張薬や気道のアレルギー反応を抑える薬剤を使用します。小児よりも成人に多い疾患で、咳が8週間以上続き、気管支拡張薬の効果がある場合、咳喘息の診断となります。
咳喘息の患者は一部がのちに気管支喘息へ移行することがわかっており、早い段階で咳喘息の診断をつけ、適切な治療を開始することが予後を改善させることにつながります。
百日咳
百日咳菌(Bordetella pertussis)という細菌への感染が原因となる疾患です。1週間〜10日程度の潜伏期間の後に、カタル期と呼ばれる風邪に似た症状が1〜2週間続く期間を経て、2〜4週間程度独特の咳が出るようになります。これはスタッカートと呼ばれる咳で、顔が発赤しコンコンという強い咳が出て、咳が収まる時に音を立てて勢いよく息を吸うような状態となります。この独特の咳が1週間〜数か月程度続き、快方へと向かっていきます。
子どもが接種する4種混合ワクチンには百日咳も含まれていますが、ワクチン接種を済ませていても感染するリスクは無くなりません。ただし、ワクチン接種をしていれば独特の咳の症状が出づらくなるというメリットがあります。生後間もない赤ちゃんが百日咳にかかると、あまり咳が出ずに無呼吸発作を起こしたり、けいれんを起こして命に関わる場合もあります。
診断は咽頭粘膜を採取して行います。早期に抗菌薬治療を開始すれば症状が現れる期間を短くすることができますが、子どもの咳の原因疾患として百日咳を早期に診断することは非常に難しいのが実情です。家庭内で二次感染を起こすしうる感染症なので、ご家族の中で乾いた咳が長く続いている方がいれば、早めに検査を受けることをお勧めします。
気道異物
呼吸の際の空気の通り道である気管や喉頭、そして、左右の肺に分岐している気管支に異物を吸引することで窒息が起こります。空気が何とか通っている状態であっても、呼吸に支障をきたすことがあります。また、長期間続く咳、ヒューヒュー・ゼーゼーという苦しそうな喘鳴が起こることもあります。
異物が動いて窒息が起こるリスクが高いため、異物の吸引が分かった場合は速やかに救急車を呼んでください。異物はX線検査だけでは確認が難しいこともあり、内視鏡検査や胸部CT検査が必要となることもあります。
「誤飲」と「誤嚥」は全くの別物です
誤飲とは、飲み込んだ異物が食道に入ること、一方で誤嚥とは気道に入ることを指します。小さな子どもでよく見られるのは誤飲です。誤飲の場合、息苦しさがなく声を発することができていれば、救急車を呼ばなくても大丈夫です。判断に迷う場合は救急病院へお問い合わせください。
誤嚥の場合は、息苦しさや激しい咳が起こるようになります。咳は一時的なもので終わることもありますが、長く続いたり一度治った後に再発したりするようであれば、誤嚥性肺炎の疑いがあります。
胃食道逆流症
胃酸などの胃の内容物が食道へ逆流する現象(胃食道逆流)は、健常児でも生理的に認められ、成長と共に軽快します。胃食道逆流が繰り返しおこり、嘔吐、喘鳴(ゼーゼーした呼吸)、咳などの症状を伴う場合を胃食道逆流症といいます。
逆流は、食道と胃の接合部にある筋肉が、一過性に緩むことで発生すると考えられています。大人に多い疾患ですが、子どもで生じると、長引く咳や、夜横になると咳が出る、日中に乾いた咳が続く、といった症状が出てきます。
心因性咳嗽(がいそう)
咳嗽とは咳のことで、心因性の咳嗽は乾いた咳を頻発するようになります。日中の起きている時間に咳が出ることが多く、逆に就寝中はあまり咳が出ないという特徴があります。
心因性咳嗽を検査で見つけることはできず、咳喘息、副鼻腔炎、気管支喘息、胃食道逆流症などのその他の疾患の疑いが消えた段階で診断を行うため、確定診断医至るまでに相応の時間が必要となります。咳が出るメカニズムは、緊張やストレスによって気道に刺激が加わることだと考えられています。
咳がある時の自宅でのケア方法
マスクの着用や加湿器によって適度な湿度を保ちます。
冷たい水を少しずつ、何回かに分けて飲ませてください。
保護者の方の喫煙はお控えください。
よくある質問
夜中や朝方によく咳が出るのは何故でしょうか?
就寝中は副交感神経の働きが活発になり気道が狭くなる傾向にある一方で、日中は交感神経の働きが活発になるため気道が広がる傾向にあります。寝入りや寝起きなど神経の切り替わるタイミングでは、気道の変化により多少の刺激が加わるだけでも脳の咳中枢に刺激が伝わり、咳やすくなります。また、寒暖差も咳が出る原因となりますので、就寝時に布団の中に入って身体が温まると、咳が出やすくなります。また横になると鼻水がのどの方に流れ落ちる後鼻漏が起こりやすくなり、咳を誘発しやすくなります。このような条件が合わさって、夜中や朝方は咳が出やすくなると考えられます。
激しい咳で嘔吐してしまうこともありますが、一度病院に行った方が良いでしょうか?
多くの場合は、咳き込みにより腹圧が上がることで、胃から内容物が逆流しやすくなり、嘔吐をします。乳幼児期は嘔吐をしやすいですが、成長に伴い徐々にみられなくなっていきます。ただし、気管支喘息・気管支炎・肺炎・クループ症候群・急性喉頭蓋炎・百日咳などが原因となって嘔吐を生じている場合もあり注意が必要です。繰り返す場合にはご相談ください。
咳が長く続いていますが発熱はないため、市販薬を使うだけで大丈夫でしょうか?
2週間以上、症状が軽快しない場合には一度診察を受けることをお勧めします。
咳が長く続く場合、どんな病気が原因となりますか?
感冒後咳嗽(風邪の後に気道の過敏性が残るために咳が続く状態)、気管支喘息、気管支炎、副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎、胃食道逆流症などが原因として考えられます。また、マイコプラズマ肺炎や百日咳など速やかに治療すべき場合もあります。非常に稀ですが、先天性の異常、心臓の異常、免疫不全によって繰り返される呼吸器感染症が原因となっていることもありますので、咳が2週間以上続く場合には一度ご相談ください。