熱性けいれんとは
おもに生後6か月から満60か月(5歳)までの乳幼児期におこる、38℃以上の発熱に伴う発作性疾患をさします。未熟な脳が「発熱」という刺激に対して反応するためと考えられており、成長に伴い多くは5歳ごろまでに自然に起こさなくなります。
ガクンガクンと手足を震わせたり、全身が突っ張ったりするような運動性のけいれん発作だけではなく、脱力、一転凝視(焦点が合わずボーっとして反応が悪くなる)、眼球上転(白目になる)のみなどの発作も一部にみられることがあります。
日本での有病率は欧米よりも高く、7~9%程度と言われています。
熱性けいれんの原因
熱性けいれんの原因として多いのは、突発性発疹、夏風邪(ヘルパンギーナや手足口病など)、インフルエンザなどですが、高熱をきたす疾患はすべて熱性けいれんの原因となります。
熱性けいれんを起こしやすい子供の特徴
遺伝的な要因もあるとされ、両親のどちらか(あるいは両方)が熱性けいれんを起こしたことがあると2~3倍頻度が高くなると言われています。また男児にやや多いこともわかっています。
熱性けいれんの症状
ガクンガクンと手足を震わせたり、全身が突っ張ったりするような運動性のけいれん発作だけではなく、脱力、一転凝視、眼球上転のみなどの発作も一部にみられることがあります。
多くの場合が5分以内におさまりますが、けいれんが止まったあともしばらくボーっとしていたり、眠ったりすることも多いですが、意識は元に戻っていきます。
熱性けいれんの中でも、次の特徴がある場合には「単純型」熱性けいれんと呼ばれます。
- 発作時間が15分以内で意識の回復が良い
- 24時以内に再けいれんがない
- 左右対称の全身性のけいれん
「単純型」の場合には典型的な熱性けいれんと判断することができ、より詳しい検査を必要とすることが少ないのが特徴です。
お子さんがけいれんした場合には、けいれんの「持続時間」「左右差の有無」「部分的なけいれんがないか」をよく観察していただき、医師にお伝えください。
「複雑型」の場合やけいれん重積(20~30分以上の長く続くけいれん発作)では、他疾患との鑑別のために入院して詳しい検査が必要となる場合が多いでしょう。
熱性けいれんの対処方法
けいれん時には、意識や反応がなくなり、顔色や呼吸状態が悪くなることが多いため、突然の出来事にパニックになってしまう保護者の方がほとんどです。
けいれん時には以下のことに気を付けて対応してください。
- まずは保護者の方が落ち着いてください。けいれん自体で死に至ることは極めてまれです。特に「単純型」熱性けいれんの場合は後遺症もなく予後は良いため、落ち着いて対応するようにしてください。
- お子さんの体を横向きにして寝かせてください。けいれん時には嘔吐をすることが多く、吐物で気道をふさいで窒息しないように、首元の衣服を緩めて横向きにしましょう。
- けいれんの持続時間を把握してください。あとで医師に伝えられるように、できる限りけいれんの様子を観察してください。動画で撮っておくのもよい方法です。
- 5分以内に自然におさまり、その後の意識の回復が良い場合(呼びかけに反応し、しっかり視線が合い、指示に従ったり会話が可能な状態)は、落ち着いてから医療機関を受診してください。
- 5分以上けいれんが続く場合には、ためらわずに救急車を呼んでください。
- けいれん自体は治まっていても、「意識の回復が悪い」「顔色や呼吸状態が悪い」「いったん止まったけいれんを再び繰り返す」場合にも、救急車を呼んでください。
熱性けいれんの検査
けいれんの原因として、髄膜炎や脳炎などの重篤な感染症、先天性代謝異常症、低血糖、循環器疾患などの可能性も考慮する必要があります。
けいれんの持続時間や、発作の性状、繰り返しの有無、家族歴などを聴取します。
また本人の意識状態や神経学的な診察を行った上で、必要に応じて血液検査、髄液検査、頭部CT、頭部MRI、脳波検査などを検討します。
予防方法について
熱性けいれんを起こしたすべてのケースで予防的に薬を使用する必要はありません。熱性けいれんの60-70%は生涯を通じて再発することはなく、「単純型」熱性けいれんでは、発作後の脳障害や知能低下を起こすことはありません。ですから、「単純型」と呼ばれるタイプの典型的な熱性けいれんであれば、予防投与は不要です。
熱性けいれんを繰り返し起こす可能性のあるお子さんについては、ダイアップという坐薬の使用により熱性けいれんの予防を行う場合があります。
熱性けいれんの大半は、発熱後24時間以内に出現するため、発熱に気づいたら速やかにダイアップ坐薬を使用し、発熱後24時間を予防する必要があります。
具体的には37.5℃以上の発熱を認めたら、速やかにダイアップを使用します。8時間後も発熱が続いていた場合には、2個目のダイアップを使用します。こうすることで、発熱からおおよそ36~48時間にわたり、抗けいれん薬の血中濃度が適切な治療域内に保たれ、けいれんを予防することができます。
副作用として、ボーっとしたり、眠くなったり、ふらつくことがあるため注意が必要です。
ダイアップ坐薬による予防については、最終発作から1~2年程度、あるいは就学前ごろまで継続することが多いですが、明確な決まりはありません。いつまで予防投与を行うか、かかりつけ医とよく相談するようにしましょう。
なお、発熱時に解熱剤を使うことはけいれんの予防にはなりません。
Q&A
熱性けいれんは繰り返しますか?
多くの場合(70%程度)、生涯で1度きりで繰り返すことはありません。
一方で、以下のケースでは繰り返し起こすリスクが上がります。
両親のどちらか(あるいは両方)が熱性けいれんを起こしたことがある場合、初めての熱性けいれんが1歳未満で起きた場合、熱が出てからけいれんするまでが1時間以内の場合、38℃以下の低い発熱に伴う熱性けいれんの場合などです。
熱性けいれんを起こしたら、救急車を呼んでもいいですか?
けいれんが5分以上続く場合には、ためらわずに救急車を呼んで構いません。
5分以内におさまった場合でも、初めてけいれんをした場合には医療機関を受診するほうが安心です。救急車を呼ぶ必要はありませんが、日中であればかかりつけ医を、夜間や休日は救急外来を受診してください。
これまでにけいれんを繰り返しており、医師に熱性けいれんと診断されている場合には、すぐに受診しなくても構いません。
熱性けいれんが原因でてんかんをおこすことはありますか?
熱性けいれんとてんかんの違いを教えてください。
熱性けいれんは38℃以上の発熱に伴って発症するけいれん発作です。てんかんは基本的には発熱とは関係がありません。またてんかん発作の症状には、けいれん発作だけではなく、意識レベルの低下、脱力、体の一部だけが収縮する(口だけもぐもぐ動く、手だけがピクピクするなど)など多彩な症状があります。
熱性けいれんを起こした子どもの3~5%が将来てんかんに移行すると考えられています。初回のけいれんが1歳未満、家族に無熱性けいれんやてんかんの人がいる、複雑型熱性けいれんの既往がある、などの場合てんかんへ移行するリスクが高いと考えられます。
複雑型熱性けいれんとは
- けいれんの持続時間が15分以上
- けいれんが体の一部のみで起こるなど局所的である
- 1度の発熱で繰り返しけいれんが起こっている
熱性けいれんに気づかなかったら、死んでしまうこともありますか?
熱性けいれんの多くは5分以内に自然に止まります。そして熱性けいれん自体により死に至ることはまずありません。過度に熱性けいれんを恐れなくても大丈夫です。
けいれんの原因に脳炎など他の疾患が関与している場合には、後遺症を残すなど重篤な状態になることもありますが、その場合はけいれんの持続が長くなったり、けいれんがおさまっても意識レベルの悪い状態が続くなど、長時間にわたり症状が持続したり反復するため、気づくケースが多いでしょう。
熱性けいれんに24時間以内に2回なると危険と聞きました。本当ですか?
1日の中でけいれん発作を複数回繰り返したり(群発)、けいれんが止まった後の意識状態の回復が悪い場合などは、髄膜炎や脳炎といった重篤な感染症や、その他の疾患が原因である可能性が高くなります。したがって、そのような症状を認めた場合には、救急車を呼んで必ず医療機関を受診しましょう。
熱性けいれんを起こすと脳障害や知能低下を引き起こしますか?
「単純型」を繰り返しても脳に後遺症は残りません。また「複雑型」であっても、神経学的な異常や発達異常を認めなければ、将来脳障害や知能低下などをきたすことはほとんどありません。
けいれん時にやってはいけないことはありますか?
歯をくいしばっていても、口の中にものを入れてはいけません。嘔吐を誘発し、吐物で窒息してしまうリスクとなりえます。体をゆすったり押さえつけたりせずに様子を観察するようにしましょう。
熱性けいれんに坐薬は有効ですか?使用する判断も教えてください。
熱性けいれんんの60~70%は生涯を通じて再発することはなく、特に「単純型」熱性けいれんでは坐薬による予防投与は必要がないと考えられますが、けいれんを繰り返すケースでは、けいれん予防で坐薬を使用することがあります。発熱早期に使用することで、けいれん発作を予防できることがわかっています。
ダイアップ(坐薬)の予防的な使用が望ましいケースとしては、
- けいれんの持続が15分以上
または、下記のうち2つ以上を満たした場合 - 焦点発作(部分的な発作)または24時間以内にけいれん発作を反復する場合
- 熱性けいれん以前より存在する神経学的異常や発達の遅れ
- 熱性けいれんまたはてんかんの家族歴
- 初回発作が生後12か月未満
- 発熱後1時間未満での発作
- 38度未満の発熱に伴う発作
このようなケースのお子さんについては、医師よりダイアップによる予防を勧められることが多いでしょう。
熱性けいれんを起こした後、予防接種は受けてもよいですか?
医師から特別な指示がない限り、基本的にはスケジュール通りに予防接種を受けるようにしてください。かつては、熱性けいれん後に一定期間をおいてから予防接種を再開するように推奨されていた時期がありましたが、現在では一定の間隔をあけて接種をすることの必要性に明確な根拠がないことや、乳幼児期には重要な予防接種が数多くあることから、遅らせることなく予定通りに接種を進めていくことが推奨されています。