マイコプラズマ感染症

マイコプラズマとは

マイコプラズマとは風邪症状、気管支炎や肺炎を起こす細菌の一種です。
細菌に分類される病原体ではありますが、マイコプラズマは一般の細菌とは構造が異なり細胞壁をもたないため、他の一般細菌とは区別され、効果のある抗菌薬も限られた特別なものとなります。
マイコプラズマに感染すると、発熱、だるさ、咳、頭痛、腹部症状(腹痛、下痢、嘔吐)などが見られます。
好発年齢は幼児から学童で、特に5~12歳に流行しやすい感染症です。

マイコプラズマ肺炎とは

マイコプラズマ肺炎とはマイコプラズマに感染した場合の多くは軽症で、5日~1週間程度で治癒していくため、いわゆる風邪と区別がつきません。しかし一部の患者様で肺炎や気管支炎を引き起こしたり、まれに脳炎や髄膜炎を起こすこともあります。
マイコプラズマ肺炎になる患者様は、マイコプラズマ感染症全体の3~5%程度と言われています。
感染した場合の典型的な経過は、発熱し、その後徐々に咳が強くなっていくのが特徴です。はじめは痰の絡まない乾いた咳であることが多く、その後徐々に痰を伴いながら強くなり、気管支炎や肺炎に至ると、3~4週間としつこく頑固な咳が続きます。
昔から「異形肺炎」と呼ばれ、肺炎にしては元気で全身状態も悪くないことが特徴といわれており、若く健康な人でも罹る特殊な肺炎として知られています。
これは、マイコプラズマ自体が直接作用するだけではなく、感染した人の体内でマイコプラズマを排除しようとする免疫反応が過剰に働き、組織がダメージを受けるという2つの作用があるためと考えられています。そのため、免疫力の強い若くて健康な人ほど症状がひどくなりやすいと言えます。免疫機構の弱い乳幼児や高齢者では、免疫反応が強く起きないため重症化しにくく、免疫力のついた学童期~青年期に感染すると、重症化して肺炎を起こしやすいのです。

感染経路

インフルエンザの感染経路咳やくしゃみなどのしぶきから感染する「飛沫感染」と、飛び散った唾のしぶきなどに直接触れて感染する「接触感染」よって、うつります。
手洗いやうがいをしっかり行い、食器やタオルなどを共有したり、人の食べ残しを食べたりしないように日ごろから気を付けるようにしましょう。

潜伏期間

感染してから発症するまでは2~3週間と比較的長いのが特徴です。インフルエンザや新型コロナウイルス感染症のように、どんどんと感染者数が増えていくような流行り方はあまりおこりません。

マイコプラズマは大人もうつる?

マイコプラズマは全年齢がかかる感染症ですが、特にこども(幼児、学童、青年期)で多くみられる感染症です。
マイコプラズマの感染力はさほど強くはなく、潜伏期間も長いためインフルエンザのように急激に大きな流行がおこる可能性は高くありません。しかし接触機会の多い家庭内では広がりやすく、こどもと共に親も感染するケースがよく見られます。

マイコプラズマ感染症の症状

マイコプラズマ感染症の症状マイコプラズマに感染すると、発熱、だるさ、咳、頭痛、腹部症状(腹痛、下痢、嘔吐)などが見られます。発熱と咳がメインで、鼻汁はありません。多くの場合は軽症で、5日~1週間程度で治癒していくため、いわゆる風邪と区別がつきません。軽症の場合では、必ずしも抗菌薬の投与は必要ありません。

マイコプラズマ肺炎の症状

マイコプラズマ肺炎の症状発熱し、徐々に咳が強くなっていくのが特徴です。はじめは痰の絡まない乾いた咳であることが多く、その後痰を伴いながら強くなり、気管支炎や肺炎に至ると、3~4週間としつこく頑固な咳が続きます。熱が長引くケースでは、午前中は熱が下がっていて、午後からあがってくる、という経過のことも多く、受診の遅れにつながります。
レントゲンを撮ると両肺に白く影がうつり、しっかりとした肺炎像を呈します。昔から「異形肺炎」として、レントゲンの肺炎像のわりには元気で全身状態も悪くないことが特徴といわれており、聴診所見にも異常がないことが多く、診断の遅れにつながりやすい疾患です。若く健康な人でもマイコプラズマ肺炎にかかることがあります。痰の絡まない乾いた咳が長引くケースや、すでに病院で風邪薬などを処方されているがなかなか咳がよくならないようなケースでは、マイコプラズマ肺炎の可能性も考える必要があります。

診断・治療について

マイコプラズマ感染症の診断・治療

マイコプラズマ感染症の多くは、いわゆる風邪と見分けのつかない症状で、約1週間程度の経過で治癒します。症状の軽いケースでは必ずしも検査でマイコプラズマ感染かどうかを診断する必要はなく、風邪薬を飲むなどの対応でよくなっていくことが多いでしょう。

マイコプラズマ肺炎の診断・治療

マイコプラズマ肺炎になるのは、マイコプラズマ感染者全体の3~5%程度と言われています。マイコプラズマ肺炎の症状には、「乾いた咳がなかなか治らない」「熱が下がらない」という特徴があります。
肺炎が疑われた場合には、レントゲンの他に大きく3つの診断方法があります。

  1. マイコプラズマ抗原定性検査といって、咽頭をスワブで拭って抗原を検出する方法です。
    15分程度で結果が出ますが、正確性に欠けるといわれています。
  2. LAMP法といって、マイコプラズマのDNAがないかをみる検査方法です。感染初期から検出可能な方法ですが、結果がでるのに3日程度かかります。
  3. 血液を採取し、血清中の抗体を調べる方法もあります。しかし、抗体は感染初期にすぐには産生されないため、初期の診断には向かないことと、より正確に判定するにはペア血清(感染初期と、2~4週間してからの2回採血を行い比較します)による抗体価の上昇を確認する必要があります。診断に時間を要するため、クリニックなどでの日常診療の場ではあまり使い勝手の良い検査ではありません。

当院ではマイコプラズマ肺炎を疑った場合には、①の咽頭拭い液を用いた迅速検査を行います。15分程度で結果がわかります。
ただし、残念ながらこの検査方法の感度はあまり高くなく、マイコプラズマに感染していても陰性とでてしまう可能性があります。
マイコプラズマは気管支や肺で増殖して、肺炎をおこすきっかけになります。咽頭をぬぐって検体をとりますが、菌が喀痰とともに気管支から咽頭付近まで排出されてこないと、検査で検出することができません。ですから、感染していたとしても、必ずしも検査で検出されるわけではなく、マイコプラズマ感染症の診断は難しいケースが多くあります。
症状の経過や周囲の流行状況などからマイコプラズマ感染を強く疑う場合には、検査をせずに治療を行ったり、検査で陰性の結果であっても治療を行う場合もあります。
マイコプラズマ肺炎では、「マクロライド系抗菌薬」や「キノロン系、テトラサイクリン系抗菌薬」といった、少し特殊な抗菌薬を使って治療をすることになります。

予防方法

予防方法残念ながらマイコプラズマ感染を防ぐ有効な方法はありません。現在日本ではワクチンもありません。飛沫感染、接触感染で広がるため、基本的な手洗いやうがい、咳エチケットを日頃から心がけるようにしてください。
家庭内では、こどもから兄弟、親への感染も多くみられます。タオルや食器の共有、人の食べ残しを食べるなどは避けましょう。

よくある質問(Q&A)

マイコプラズマは何日で治りますか?

多くは軽症で、1週間程度で治っていきます。一部の人で気管支炎や肺炎をおこし、なかなか熱が下がらなかったり、3~4週間にわたりしつこく咳が続くといった症状をおこします。

登園登校はいつから可能ですか?

マイコプラズマ感染症は、インフルエンザなどのように明確な登園登校停止の期間は定められていません。熱がある場合や、熱はなくても咳がひどくて睡眠や食事に影響があるような場合にはお休みする必要があります。熱が下がり、咳が落ち着いたら登園登校をして構いません。咳が残る場合には、できるだけマスクを着用するとよいでしょう。

大人もかかりますか。妊婦にかかると重症化しますか?

妊娠中にかかわらず、大人も感染し肺炎を起こすことがあります。
妊娠中にマイコプラズマに感染しても、胎児への影響はありませんし、特別重症化しやすいということもありません。マイコプラズマは主に気道や肺に感染してそこで増殖するため、胎盤を介して胎児に感染することはないと報告されており、過剰な心配は不要です。ただし、咳によってより腹圧がかかりやすくなったり、妊娠後期にはおなかの膨らみにより肺が圧迫されやすく、通常以上に息苦しさを感じることがあります。

マイコプラズマは抗菌薬を飲まないと治りませんか?

必ずしも抗菌薬を飲む必要はありません。感染した人の多くは、いわゆる風邪とみわけのつかない程度の症状で良くなります。一般的な風邪薬を飲んでもなかなかよくならない咳、何日も熱が下がらず咳がひどくなるなどの症状では、医療機関を受診するとよいでしょう。

マイコプラズマは熱がでますか?

はじめに熱がでて、その後から咳の症状がでてくるケースが多いですが、明らかな発熱がない場合もあります。

マイコプラズマは一度かかっても何回もなりますか?

終生免疫がつかないため、何度でもかかる可能性があります。

マイコプラズマ肺炎の症状や咳の音は?

熱がなかなか下がらない、強い咳がしつこく長く続く、という症状が典型的です。はじめのうちは乾いた咳ですが、徐々に痰がからむようになります。夜間も咳込みが強くて眠れない、咳込んで吐いてしまう、というお子さんもいます。熱がなかなか下がらないようなケースでは、午前中は熱がさがっているものの、午後からあがってくるような熱型のことが多く、受診の遅れにつながりやすいです。

マイコプラズマ肺炎は放っておくとどうなりますか?

炎症の程度が軽い場合は、自然治癒することもあります。しかし、肺炎に至った場合の多くは、適切に治療をしないと何週間も咳が治まらず、睡眠など日常生活にも支障をきたすようになります。またもともと喘息もちの人が感染すると、喘息発作が誘発され、呼吸状態が悪化しやすくなる可能性もあります。熱や咳が長引く、風邪にしては咳がひどく苦しい、などの症状がある場合は、早めに医療機関を受診するようにしてください。

マイコプラズマ感染の診断で抗菌薬が処方されましたが、苦くて飲めません。

マイコプラズマの治療に使われる「マクロライド系抗菌薬」は、特に苦い薬として知られています。上手にこどもに飲ませるためのポイントをいくつかご紹介します。

  • 酸性の飲み物で混ぜてはいけません。
    抗菌薬のコーティングを溶かし、苦みをより強く感じてしまいます。
    例)柑橘系のジュース、スポーツ飲料、乳酸菌飲料、ヨーグルトなど。
  • 酸性度の高くないものに混ぜて飲ませましょう。
    牛乳、プリン、練乳、ココア、チョコレートアイスなど。
    特にチョコレート系の味が苦みを緩和させてくれるためおすすめです。
  • 飲む直前に混ぜましょう。
    酸性度の高くないものであっても、混ぜて時間がたってしまうと薬のコーティングがはずれやすくなってしまいます。
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